
「好きなおもちゃではよく遊ぶけれど、大人が入ろうとすると離れてしまう」
「同じおもちゃで遊んでいても、なんとなく別々に遊んでいる感じがする」
「一緒に遊ぼうとしても、やりとりがなかなか続かない」
このようなお子さんの姿を見て、「人に興味がないのかな」「どうやって一緒に遊べばいいんだろう」と悩む保護者の方もいらっしゃると思います。
そんなとき、私たち「結いの虹」が大切にしている視点の一つが、共同関与(Joint Engagement)です。
少し難しい言葉ですが、簡単にいうと、
「子どもと大人が、同じ遊びや出来事の中で一緒に過ごしている状態」
のことです。
大切なのは、ずっと目を合わせることでも、大人の言う通りに遊ぶことでもありません。
子どもが好きな遊びを続けながら、
「大人がそこにいることに気づいている」
「大人の動きをちょっと取り入れる」
「同じものを使って一緒に楽しむ」
そんな時間が少しずつ増えていくことを大切にします。
JASPER(ジャスパー)は、
■Joint Attention:共同注意
■Symbolic Play:象徴遊び
■Engagement:関わり合い
■Regulation:感情や行動の調整
という4つの要素を大切にする支援アプローチです。
結いの虹で使用しているJASPER資料でも、Engagementは「子どもとパートナーが互いに関わり合っている状態」と整理されています。
Engagementという大きな「関わり」の中でも、発達研究やJASPERで特に大切にされているのがJoint Engagement(共同関与・共同参加)です。
これは、大人と子どもが同じおもちゃや出来事を中心にして、一緒に活動している時間を指します。研究上も、共同関与は「大人と子どもが共有している物や出来事に一緒に注意を向けている時間」と整理されています。
たとえば、子どもがミニカーを走らせています。
その横で大人も別のミニカーを走らせます。
子どもが大人の車をちらっと見る。
大人が「ブーン」と走らせると、子どもも速く走らせる。
今度は子どもの車が止まると、大人も止める。
言葉で会話していなくても、二人の遊びがお互いに影響し合っています。
これも共同関与の大切な姿です。
ここは、とても大切なところです。
共同関与という言葉を聞くと、
「ちゃんと相手の顔を見ること」
「アイコンタクトを取りながら遊ぶこと」
を想像するかもしれません。
しかし、必ずしもそうではありません。
研究では、共同関与の中にSupported Joint Engagement(支えられた共同関与)という状態があります。
これは、子どもが大人の顔をはっきり見たり、「一緒に遊ぼう」と伝えたりしていなくても、
■大人と交代しながら遊ぶ
■大人の動きをまねする
■大人の遊び方についていく
■大人が一緒に参加していることに気づいている
といった姿が見られる状態です。
つまり、
「顔を見たかどうか」だけで、人との関わりを判断しない
ことが大切です。
結いの虹でも、「こっちを見て」「先生の目を見て」と繰り返し求めることより、
子どもが思わず相手を意識したくなるような楽しい遊びをつくることを大切にしています。
共同注意(Joint Attention)と共同関与(Joint Engagement)はよく似ていますが、少し違います。
共同注意
「これ、おもしろいね」と、人と何かを共有するための行動です。
たとえば、
■「おもしろい物を指さす
■おもちゃを大人に見せる
■大人が指さした物を見る
■おもちゃと大人の顔を交互に見る
といった姿があります。
共同関与
共同注意のような一つの行動ではなく、「一緒に関わっている時間や状態」に注目します。
■ミニカーを使って2人で遊ぶ。
■積み木を交代で積む。
■シャボン玉が飛んでいく様子を一緒に楽しむ。
こうした時間そのものが共同関与です。
JASPER研究でも、共同注意と共同関与は区別されています。共同注意が指さしや見せるなどのコミュニケーション行動を指すのに対し、共同関与は、大人と子どもが共有する物や出来事を中心に一緒に活動している時間を指します。
結いの虹では以前の記事で、共同注意について詳しく解説しています。
関連記事:「共同注意とは?JASPERで育てる『同じものを一緒に楽しむ力』
共同注意と共同関与を一緒に考えると、子どもの小さなコミュニケーションが、より見つけやすくなります。
ここで気をつけたいのが、
「一人遊びをやめさせて、人と遊ばせなければならない」
と考えないことです。
一人で車を何度も走らせる。
積み木を同じ順番に並べる。
電車をじっと眺める。
同じ動きを何度もくり返す。
その遊びには、その子なりの「楽しい」「分かりやすい」「もっとやりたい」があります。
まず、その楽しさを大人が理解することから始めます。
子どもが一人で楽しんでいる世界を壊して、大人の遊びへ連れてくるのではありません。
大人のほうから、子どもの世界に入れてもらう。
この感覚がとても大切です。
たとえば、子どもがトミカを前後に走らせているとします。
大人はすぐに、
「道路を作ろうか」
「ここに駐車して」
「赤い車はどれ?」
と新しいことを教えたくなるかもしれません。
でも、まずは何も教えません。
大人も別の車を持って、同じように走らせてみます。
子どもが「ブーン」と言ったら、大人も「ブーン」。
子どもが車を箱の上に走らせたら、大人も同じようにやってみます。
すると、
「この人、ぼくと同じことしてる」
と気づく瞬間が生まれることがあります。
子どもが大人を見るかもしれません。
大人の車に近づけてくるかもしれません。
大人がしたことをまねするかもしれません。
ここから、二人の遊びが始まります。
JASPERでは、大人が子どもの行動をまねすることと、大人が遊び方を見せることを組み合わせながら、子どもの自発性を引き出す考え方が示されています。大切なのは「これやってみて」と言葉で指示することではなく、まず大人が楽しそうにやって見せ、子どもの反応を待つことです。
一緒に遊ぼうとすると、つい言葉が増えてしまいます。
「これして」
「次はこれ」
「これは何?」
「何色?」
「ここに置いて」
もちろん、必要な声かけもあります。
でも質問や指示が続くと、子どもは「一緒に遊んでいる」というより、「大人から課題を出されている」状態になってしまうことがあります。
共同関与を育てたいときは、
「ブーン」
「速い!」
「落ちた!」
「できた!」
くらいの短い言葉でも十分です。
そして、ときには何も言わずに一緒に遊びます。
大人が話していない時間は、子どもから何かが始まる時間でもあります。
大人が新しい遊び方を見せたあと、すぐに、
「やってみて」
と言わずに、少し待ちます。
その間に、
■大人を見る
■おもちゃを見る
■手を伸ばす
■大人の動きをまねする
■おもちゃを大人に渡す
■声を出す
■笑う
などの反応が生まれることがあります。
大人が全部先回りしてしまうと、子どもから始める必要がなくなってしまいます。
だからこそ、「待つこと」も大切な関わり方の一つです。
共同関与が続いてきたら、今の遊びに小さな変化を加えてみます。
たとえば、
「車を走らせる」
という遊びなら、
車を走らせる
↓
大人も一緒に走らせる
↓
トンネルを一つ置く
↓
トンネルをくぐる
くらいで十分です。
いきなり、
「信号をつけて、お店へ行って、買い物をして、おうちへ帰ろう」
と大きく広げる必要はありません。
JASPERでは、子どもがすでにできている遊びと、少し新しい遊びを組み合わせながら、遊びのルーティンを広げていきます。
関連記事として、結いの虹では「象徴遊びとは?ごっこ遊びが広がらない子への関わり方」でも、この「一段だけ広げる」という考え方を詳しく紹介しています。
新しい遊びを入れた途端に、
■子どもが立ち上がる
■おもちゃを取って離れる
■怒る
■別の遊びを始める
そんなこともあります。
このとき、
「もう少し頑張らせよう」
と続ける必要はありません。
「ちょっと難しかったかな」
「変化が大きかったかな」
と考えて、子どもが安心して楽しめていた遊びに戻ります。
JASPERではRegulation(感情・行動の調整)も大切な柱です。子どもの感情が崩れたときは要求を下げ、無理に遊びを拡大せず、安心できる「ベース」の遊びへ戻る考え方が示されています。
子どもが安心して参加できていることが、遊びを広げることより先です。
人は、誰かと一緒に何かをしているとき、多くのことを学びます。
たとえば、子どもと大人が車を一緒に走らせているとします。
大人が、
「速いね」
と言います。
二人が同じ車の動きを共有していれば、「速い」という言葉の意味も分かりやすくなります。
車が落ちたときに大人が、
「あっ!」
と驚けば、子どももその反応に気づくかもしれません。
そこから、
■見る
■まねする
■伝える
■待つ
■交代する
■言葉を聞く
といった経験が自然に生まれてきます。
JASPERに関する研究では、共同関与の改善が共同注意の自発的な開始に関係し、その先の言語発達につながる可能性が示されています。2〜5歳の子ども179名を対象とした分析でも、共同関与がJASPERによる社会的コミュニケーションの変化を支える重要な仕組みの一つであることが報告されています。
また、保護者を介したJASPERの研究でも、共同関与の改善が確認され、その効果は6か月後にも維持されていました。
だからといって、「共同関与を何分できれば合格」というものではありません。
ほんの数秒でも、
「今、一緒にやっていたな」
という時間があれば、大切な経験です。
Q.一人遊びが多いと、自閉スペクトラム症なのでしょうか?
一人遊びが多いという一つの姿だけで、自閉スペクトラム症かどうかを判断することはできません。
年齢、発達段階、興味、ことばの理解、感覚の特徴、遊びの経験など、さまざまなことが関係します。
大切なのは診断名を当てはめることではなく、
「今、この子はどんな遊びを楽しんでいるのか」
「人とつながるときには、どんな方法を使っているのか」
を丁寧に見ることです。
Q.目を合わせる練習をしたほうがいいですか?
共同関与のために、長く目を合わせる練習をする必要はありません。
大人の存在に気づき、一緒に遊び、交代したり、まねしたりできていれば、目立ったアイコンタクトがなくても共同関与が成立していることがあります。
「見なさい」と求めるより、
思わず相手を意識したくなる楽しい関係をつくることを大切にします。
Q.家庭でも共同関与の練習をしたほうがいいですか?
「練習」と考えなくても大丈夫です。
子どもの好きな遊びの横に座って、
■同じことをしてみる
■少しまねしてみる
■反応を待ってみる
それだけでも十分です。
家庭が療育の訓練場所になりすぎる必要はありません。
親子にとって楽しい時間であることを大切にしてください。
私たち「結いの虹」では、
「人と遊ばせなければ」
「もっとこちらを見させなければ」
とは考えていません。
まず、その子が今、何を楽しんでいるのか。
そこから始めます。
ミニカーを走らせるのが好きなら、一緒に走らせる。
くるくる回る物を見るのが好きなら、一緒に見る。
同じ歌を何度も聞きたいなら、その楽しさを共有する。
そして、
大人が子どもをまねし、
子どもが大人に気づき、
少しずつお互いの遊びが影響し合っていく。
その中で、
「この人と一緒だと楽しい」
「自分のしたことに気づいてくれた」
「伝えたら返ってきた」
という経験を増やしていきます。
大人の決めた「正しい遊び方」に子どもを近づけることが目的ではありません。
その子が持っている興味や強みを出発点に、人とのつながりを少しずつ広げていくこと。
それが、結いの虹が共同関与を大切にする理由です。
大阪市の個別療育センター結いの虹では、住吉区・住之江区・阿倍野区の3教室で、JASPER、TEACCHプログラム、インリアル・アプローチなどの考え方を取り入れながら、一人ひとりのお子さんに合わせた個別療育を行っています。
「一人遊びが多い」
「大人との遊びが続かない」
「人とのやりとりをどう広げればいいか分からない」
といったことが気になる場合も、お子さんの「今できていること」から一緒に考えていきます。
共同関与(Joint Engagement)は、
「子どもと大人が、同じ遊びや出来事の中で一緒に関わっている時間」
です。
大切なのは、
■無理に目を合わせさせない
■一人遊びを否定しない
■子どもの好きなことから始める
■まず大人が子どもの遊びをまねする
■質問や指示を増やしすぎない
■子どもの反応を待つ
■新しい遊びは一段だけ加える
■嫌がったら安心できる遊びに戻る
ということです。
人との関わりは、「人を見なさい」と言われて育つものではありません。
「一緒にいると楽しい」
そんな経験の積み重ねの中から、少しずつ育っていきます。