映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が教えてくれた、コミュニケーションの本質

映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が教えてくれた、コミュニケーションの本質

先日、映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を見てきました。映画の中で強く心に残ったことがあります。
それは、コミュニケーションの出発点は「同じ言葉を知っていること」ではなく、分かり合いたいと願うことなのではないか、ということです。

この作品では、地球人と異星人という、世界の認知の仕方が大きく異なる者同士が出会います。見えているものも、感じ方も、物事の整理の仕方も違う。それでも、お互いに「伝えたい」「知りたい」「つながりたい」という思いを持ち続けることで、少しずつ共通点を見つけ、意思疎通の道を開いていきます。

その姿は、療育の現場で子どもたちと関わるときの大切な視点にも重なって見えました。この記事では、この映画から感じたコミュニケーションの本質について、療育の視点も交えながら考えてみたいと思います。

映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』で描かれていた“通じ合うまでの過程”

この映画で印象的だったのは、主人公と異星人が最初からスムーズに意思疎通できていたわけではない、という点です。

相手がどのように世界を捉えているのか分からない。
何を危険と感じ、何を安心と感じるのかも分からない。
こちらの意図がどう伝わっているのかも分からない。

そんな「分からない」だらけの状況の中で、それでも相手を見続け、反応を確かめ、少しずつ共有できるものを探していく。その積み重ねによって、単なる情報交換ではなく、「通じ合えた」という実感のあるコミュニケーションが生まれていくように描かれていました。

ここで大切なのは、最初から完璧に分かり合うことではありません。
分からないままでも、相手に向かおうとすること。
違いがあることを前提に、それでも共通点を探し続けること。
その姿勢そのものが、コミュニケーションの始まりなのだと感じました。

コミュニケーションは「言葉」より前に始まっている

私たちはつい、「話せること」「言葉で説明できること」をコミュニケーションの中心に考えがちです。けれど実際には、言葉よりも前に始まっているやりとりがたくさんあります。

たとえば、

●同じものを見ること。
●相手の表情に気づくこと。
●楽しい気持ちを共有すること。
●「伝わった」と感じる経験を重ねること。

こうしたやりとりは、一見すると小さなことのように見えます。ですが、こうした土台があるからこそ、その先の言葉や会話が育っていきます。

映画の中でも、主人公たちは、最初から複雑な内容を伝え合えたわけではありません。まずは相手の反応に注目し、繰り返しを通してパターンを見つけ、少しずつ意味の共有を広げていきます。そこには、「分かりやすく説明する力」だけではなく、「一緒に意味を作っていく力」がありました。

コミュニケーションの本質は、情報を一方的に送ることではなく、相手との間に少しずつ共通の土台を作っていくことなのだと思います。

子どもとの関わりでも大切なのは「共有できるもの」を探すこと

この視点は、子どもとの関わりを考えるときにもとても大切です。

子どもが十分に言葉で表現できないとき、大人はつい「まだ伝えられない」「まだ分かっていない」と受け取りやすくなります。けれど、本当に見るべきなのは、言葉の有無だけではありません。 発語については「発語が少ない子どもへの関わり方|大阪の療育現場で大切にしている視点」の記事へ

●何を見ているのか。
●どんなことに心が動いているのか。
●どんな遊びなら一緒に楽しめるのか。
●どんな形なら安心して表現できるのか。

そうしたことを丁寧に見ていく中で、子どもと共有できる世界が少しずつ広がっていきます。

大人が伝えたいことを一方的に教えるのではなく、まず子どもが今どこにいるのかを知ろうとする。こちらのやり方に合わせてもらう前に、相手の世界への入り口を探していく。こうした関わりが、結果として「伝わる」「分かってもらえた」という経験につながります。

共同注意や遊びの共有が、コミュニケーションの土台になる

療育の現場では、コミュニケーションの土台として、共同注意や遊びの共有がとても大切にされています。

共同注意とは、ただ相手を見ることだけではなく、相手と何かを一緒に見たり、同じことに気持ちを向けたりすることです。たとえば、「これ見て」と伝えるように物を見せる、楽しい出来事を相手と共有しようとする、同じ遊びの中で気持ちを合わせる。そうした経験の中で、やりとりの土台が育っていきます。 共同注意については「JASPERとは?遊びの中で育つ“伝えたい”気持ち」の記事へ

言葉は、その土台の上に乗って広がっていくものです。
つまり、ことばを増やそうとするときにも、ことばそのものだけを見るのではなく、まずは「一緒に見る」「一緒に楽しむ」「一緒に感じる」という部分を大切にする必要があります。

映画の中で描かれていた異星人とのやりとりも、まさにこの積み重ねだったように思います。違いが大きいからこそ、まずは共有できるものを見つける。その姿勢が、深い意思疎通へとつながっていきました。

“分からない相手”とつながろうとする姿勢こそが本質

私たちは、相手が自分と違う世界の見方をしていると、不安になります。
すぐに分かり合えないと、距離を感じます。
思うように伝わらないと、つい諦めたくなることもあります。

けれど、本当に大切なのは、最初から同じになることではありません。
違いがあるままでも、橋をかけようとすることです。

相手を決めつけず、分からないことを前提にしながらも、なお「つながりたい」と思い続けること。
伝わらないことを失敗とせず、そこから共通点を探していくこと。
その積み重ねが、本当の意味でのコミュニケーションを生み出していくのだと思います。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は壮大なSF作品ですが、その中心にあったのはとても人間的なテーマでした。
コミュニケーションとは、うまく話せることだけではない。
正確に説明できることだけでもない。
分からない相手に向かって、それでもつながろうとすること。

その営みこそが、コミュニケーションの本質なのだと、この映画は教えてくれたように思います。

まとめ|療育の現場でも大切にしたい視点

この映画を見てあらためて感じたのは、コミュニケーションは「話せる・話せない」だけで捉えられるものではない、ということです。

相手に関心を向けること。
共有できるものを探すこと。
違いがあっても、つながろうとし続けること。

こうした姿勢は、子どもとの関わりの中でも、とても大切です。

療育の現場でも、私たちは「この子は何を感じているのだろう」「どんな形なら伝わりやすいのだろう」「何を一緒に楽しめるだろう」と考えながら、子どもとのやりとりを積み重ねていきます。その小さな積み重ねが、やがて安心感や信頼につながり、コミュニケーションの広がりを生んでいきます。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、異星人との交流を通して、そんな普遍的なことを改めて教えてくれる作品でした。
分からない相手だからこそ、丁寧に向き合う。
違うからこそ、共通点を探す。
その姿勢を、私たちも大切にしていきたいと思います。

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もし今、
「ことばがなかなか出ない」
「やりとりがうまく続かない」
「どう関わればいいのか分からない」
と感じておられる方がいらっしゃいましたら、一人で抱え込まずにご相談ください。

私たち「個別療育センター結いの虹」では、大阪市を中心に、子ども一人ひとりの理解の仕方や興味関心に合わせた個別療育を行っています。
JASPERの視点も取り入れながら、遊びや日常のやりとりの中で「伝わった」「つながれた」という経験を大切に積み重ねていきます。

コミュニケーションは「できる・できない」で判断するものではなく、関係の中で少しずつ育っていくものです。
だからこそ、その子に合った関わり方を一緒に見つけていくことが大切だと考えています。

大阪市で療育をご検討の方、見学やご相談は随時受け付けております。
まずはお気軽にお問い合わせください。 見学やご相談はこちらへ

代表 奥野伸一

合同会社ファイブエス

代表 奥野伸一

個別療育センター結いの虹を運営。大阪市で発達に特性のある子どもたちへの個別療育に取り組んでいます。TEACCHプログラムやJASPER、インリアルアプローチなどのエビデンスに基づいた支援を大切にし、子ども一人ひとりの強みを生かした関わりを重視しています。遊びや日常の関わりの中で「伝えたい」「一緒に楽しみたい」という気持ちを育み、親子が自分らしく笑いあえる時間を増えることを目指しています。

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