- 結いの虹通信
「遊びを終わろうとすると怒ってしまう」
「思いどおりにならないと泣いてしまう」
「楽しくなると興奮しすぎて、先生の声が届かなくなる」
このような姿を見ると、大人はつい、
「落ち着いて」
「泣かないよ」
「最後までやろう」
と言いたくなるかもしれません。
でも、JASPERでは、子どもを無理に落ち着かせることだけを目指しているわけではありません。
大切なのは、
「この子は今、安心して遊べているかな?」
「人と一緒に楽しめる状態かな?」
と考えることです。
JASPERでは、気持ちや行動を整えながら、人や遊びに参加しやすい状態をつくることを「Regulation(レギュレーション)」と呼びます。
この記事では、保護者の方にも分かりやすいように「感情調整」と表しますが、実際には気持ちだけでなく、行動や人との関わりやすさも含めて考えます。
Contents
JASPERの感情調整で大切なのは、「泣かない・怒らない子にすること」ではなく、子どもが安心して人と遊び、学べる状態をつくることです。
子どもの気持ちが大きく崩れたときには、子どもだけに頑張ってもらうのではありません。
大人も、
「少し難しすぎたかな?」
「質問が多すぎたかな?」
「一度、好きな遊びに戻ったほうがいいかな?」
と考え、関わり方を変えていきます。
JASPERは、次の4つのことを大切にする療育の考え方です。
■Joint Attention(共同注意)
人と同じものを見たり、「見て!」と伝えたりする力
■Symbolic Play(象徴遊び)
見立て遊びやごっこ遊びを広げていく力
■Engagement(関わり・共同関与)
人と一緒に遊び、楽しい時間を続けること
■Regulation(感情や行動の調整)
安心して人や遊びに参加できるよう、自分の状態を整えること
この4つは、別々のものではありません。
たとえば、気持ちが大きく乱れているときに、
「先生を見て」
「同じ遊びをしよう」
「ことばで言って」
とお願いしても、難しいことがあります。
まずは、人と安心して関われる状態をつくることが大切です。
感情調整という言葉を聞くと、
「静かに座れること」
「怒らないこと」
「言われたとおりにできること」
と思われることがあります。
でも、それだけではありません。
たとえば、子どもが楽しそうにミニカーを走らせています。
先生も隣で、
「ブーン!」
とミニカーを走らせます。
子どもが先生をちらっと見る。
先生が車を止めると、子どもも止める。
二人で笑う。
この子はじっと座っているわけではありません。
それでも、先生と同じ遊びの中にいて、一緒に楽しめています。
これは、とても大切な状態です。
反対に、静かに椅子に座っていても、
遊びを楽しんでいない。
緊張した顔をしている。
先生から言われたことを、ただこなしている。
という場合もあります。
JASPERでは、「ちゃんと座れているか」だけではなく、「人や遊びとつながっていられるか」を大切にします。
子どもが急に怒ったり、泣いたりすると、
「癇癪をなくさないと」
と思うかもしれません。
結いの虹では、まず、
「この子は今、何に困っているんだろう?」
と考えます。
たとえば、
■難しすぎた
■疲れてきた
■楽しい遊びを終わらせたくなかった
■次に何をするのか分からなかった
■大人からの質問や指示が多くなった
■音や人の多さがつらかった
など、いろいろな理由が考えられます。
泣く、怒る、その場から離れる。
こうした姿も、
「今はちょっとしんどいよ」
という子どもからのサインかもしれません。
そのサインを見ずに、
「泣かない」
「頑張ろう」
「最後までやろう」
と続けると、さらに苦しくなってしまうことがあります。
大切なのは、行動だけを見て子どもを評価しないことです。
なぜそうなったのかを考えることから、支援は始まります。
JASPERでは、子どもがすでに知っていて、安心して楽しめる遊びを土台にしながら、少しずつ遊びを広げていきます。
たとえば、車を走らせることが大好きな子がいるとします。
最初は先生も一緒に車を走らせます。
子どもが、
「ブーン」
と走らせたら、先生も、
「ブーン」
とまねします。
子どもが先生を見たり、笑ったりして、
「一緒に遊ぶの、ちょっと楽しいな」
という状態になってきたら、少しだけ新しい遊びを加えます。
たとえば、車の前にトンネルを一つ置いてみます。
子どもが楽しめれば、そのまま遊びを広げます。
でも、急に嫌がったり、その場から離れたりしたら、無理に続けません。
もう一度、いつもの車を走らせる遊びに戻ります。
これは、
「できなかったから簡単にする」
ということではありません。
もう一度、安心して人と遊べる状態に戻るための調整です。
遊びが安定してきたら、またほんの少し広げていきます。
結いの虹の個別療育でも、最初からたくさんのことを教えようとはしません。
たとえば、子どもがミニカーで楽しそうに遊んでいたら、先生も近くでミニカーを走らせます。
子どもが、
「ブーン」
と言えば、先生も、
「ブーン」
と返します。
子どもが先生を見て「にやっ」と笑ったら、それも大切なやりとりです。
このとき先生が、
「これは何色?」
「赤い車取って」
「先生にちょうだい」
「次はここに置いて」
と次々に言うと、それまで楽しかった遊びが「課題」のようになってしまうことがあります。
そのため、結いの虹では、
「何かを教えること」より先に、「この先生と一緒にいると楽しい」と感じられる関係をつくること
を大切にしています。
そこから、
先生を見る。
先生のまねをする。
おもちゃを見せる。
「もう1回」と伝える。
というやりとりにつなげていきます。
結いの虹では、その子の好きなものや得意なことを大切にしています。
たとえば、
電車
キャラクター
歌
シャボン玉
ふれあい遊び
こうした「好き」は、単なるごほうびではありません。
人とつながるための大切な入り口になるからです。
結いの虹の療育でも、好きな歌やペープサートを先生と一緒に楽しんでいるうちに、先生の動きを自然にまねしたり、先生が歌い始めると自分から歌い始めたりすることがあります。
大人に、
「歌って」
と言われたから歌うのではありません。
「楽しい」「もう一回やりたい」
という気持ちから、子ども自身の行動が生まれます。
JASPERでは、このような子どもの興味や自発性をとても大切にします。
小さな子どもに、
「自分で落ち着いて」
と言っても、簡単にはできません。
大人でも、
疲れているとき
予定が急に変わったとき
何をすればいいのか分からないとき
イライラしたり、不安になったりします。
子どもなら、なおさらです。
だから、子どもだけに頑張ってもらうのではなく、大人も関わり方や環境を変えます。
たとえば、
■質問やお願いを少なくする
■好きな遊びに戻る
■話しかける言葉を短くする
■子どもの遊びをまねする
■少し待つ
■次に何をするのか絵や写真で見せる
■「あと1回」など、終わりを分かりやすくする
といった方法があります。
結いの虹ではJASPERだけでなく、必要に応じてTEACCHプログラムなどの考え方も取り入れます。
たとえば「次に何をするのか分からなくて不安」という子には、言葉で何度も説明するよりも、写真や絵で見せたほうが分かりやすいことがあります。
子どもだけを大人に合わせるのではなく、大人や環境も子どもに合わせる。
これも、私たちが大切にしている支援の考え方です。
療育では、
「この子は切り替えが苦手です」
という言葉をよく聞きます。
でも、この言葉だけでは、その子がなぜ困っているのかは分かりません。
同じように遊びを終えられなくても、
「大好きな遊びだから、まだ続けたかった」
のかもしれません。
「急に終わりと言われて、びっくりした」
のかもしれません。
「次に何をするのか分からなくて、不安だった」
のかもしれません。
そんなとき、
「あと1回でおしまい」
と知らせたり、
次にする活動を写真で見せたりすると、安心して切り替えられる子もいます。
結いの虹では、
「この子は切り替えができない」と決めつけるのではなく、「どうしたらこの子に分かりやすくなるだろう?」
と考えることを大切にしています。
感情調整の支援では、泣いたり怒ったりしてから対応するだけではありません。
その少し前にある変化を見ることも大切です。
たとえば、
・いつもより動きが速くなってきた
・先生をあまり見なくなってきた
・おもちゃの扱いが強くなってきた
・声がだんだん大きくなってきた
・何度もその場から離れるようになった
そんな変化があったとき、
「ちゃんとして」
と注意する前に、
「少し疲れてきたかな?」
「今の遊びは難しくなってきたかな?」
と考えてみます。
そして、
・質問を減らす
・少し休む
・好きな遊びに戻る
・先生が一緒に遊ぶ
という調整をします。
大きく崩れてから何とかするだけではなく、その前の小さなサインに気づくことも大切です。
Regulation(感情調整)は、癇癪を減らすためだけのものではありません。
子どもが安心して人と遊べるようになると、
・先生を見る
・一緒に笑う
・同じものを見る
・まねをする
・「見て!」と伝える
・「もう1回!」とお願いする
といったやりとりが生まれてきます。
そこから、共同注意やコミュニケーション、遊びが少しずつ広がっていきます。
JASPERの、
共同注意・遊び・共同関与・感情調整
は、それぞれがつながっています。
だからこそ、結いの虹では「できることを増やす」だけではなく、その子が安心して人とつながれる状態をつくることを大切にしています。
子どもが泣いたとき
怒ったとき
遊びから離れたとき
それだけを見て、
「できなかった」
とは考えません。
私たちは、
「何がしんどかったんだろう?」
と考えます。そして、
■子どもの好きなこと
■得意なこと
■安心できる遊び
■分かりやすい伝え方
■一緒に楽しめる人との関係
そうしたものを手がかりに、もう一度、人や遊びとつながれる方法を探します。
目標は、その子を「困らない子」「言うことを聞ける子」に変えることではありません。
その子が自分らしく、安心して人と関わり、自分の力を出しやすくなること。
そのために何が必要なのかを、子どもと一緒に考えていくことを大切にしています。
「どうしてこんなに怒るんだろう」
「声をかけても、なかなか切り替えられない」
「どんなふうに関わればいいのか分からない」
そんなとき、行動だけを直そうとする前に、その子が困っている理由を一緒に考えてみることが大切です。
個別療育センター結いの虹では、一人ひとりの発達段階、興味、得意なこと、分かりやすい方法を見ながら個別療育を行っています。
大阪市の住吉区(長居教室)・住之江区(住之江教室)・阿倍野区(昭和町教室)の3教室があります。
「うちの子にはどんな関わり方が合うのかな?」
という段階でも大丈夫です。
実際の教室や個別療育の様子を見ていただきながら、お子さんについて一緒に考えていきます。
Q.癇癪が起きたら、やりたいことを全部させるのでしょうか?
いいえ。
子どもの要求をすべて通す、という意味ではありません。
大切なのは、
「なぜ今、気持ちが大きく崩れたのか」
を見ることです。
難しすぎたのか
疲れていたのか
終わりが分からなかったのか
大人からの要求が多すぎたのか
理由を考えながら、子どもが参加しやすい方法に調整していきます。
Q.嫌がることを避けていたら、できることが増えないのでは?
ずっと好きなことだけをするわけではありません。
JASPERでは、子どもが安心してできる遊びから始めて、ほんの少し先の遊びややりとりへ広げていきます。
ポイントは、大人がどんどん進めるのではなく、
「このくらいなら一緒に楽しめそう」
というところを見ながら進めることです。
Q.自分で気持ちを落ち着けられるようになりますか?
自分で気持ちや行動を整える力は、少しずつ育っていきます。
ただ、小さな子どもに最初から、
「一人で落ち着きなさい」
と求めるのは難しいことがあります。
まずは、
「大人と一緒なら落ち着けた」
「分かりやすくしてもらったら次に進めた」
という経験を積むことが大切です。
Q.自閉症の子どもは感情調整が苦手なのでしょうか?
子どもによって違います。
「自閉症だから感情調整ができない」と決めることはできません。
大切なのは、診断名だけを見るのではなく、
「どんな場面で困りやすいのか」
「どんな伝え方なら分かりやすいのか」
「何があると安心できるのか」
を一人ひとり見ていくことです。
JASPERのRegulation(感情調整)は、
「泣かない子にすること」
「怒らない子にすること」
「じっと座れる子にすること」
ではありません。
子どもが安心して人と一緒に遊び、その中で自分の力を出せる状態をつくることです。
子どもの気持ちが大きく崩れたときには、
「もっと頑張って」
ではなく、
「少し難しすぎたかな?」
と大人も考えてみる。
必要なら、好きな遊びに戻る
大人も一緒に楽しむ
分かりやすい方法に変えてみる
そしてもう一度、
「この人と一緒なら大丈夫」
「この人と遊ぶと楽しい」
と思えるところから始めます。
その積み重ねが、
人を見ること
一緒に楽しむこと
自分から伝えること
遊びを広げること
そして少しずつ、自分で気持ちを整えることにもつながっていきます。
子どもだけを変えようとするのではなく、大人の関わり方や環境も変えていく。
それが、結いの虹が大切にしているJASPERの感情調整(Regulation)です。
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